- 小林 昌之 /Masayuki Kobayashi(日本)
- (独)日本貿易振興機構 アジア経済研究所 新領域研究センター主任調査研究員 モデレーター
- 専門は中国法、障害法。中国を中心にアジアの障害法制を研究するとともに、現地のろう者や手話事情についても考察。中国社会科学院法学研究所客員研究員(1993年-1995年)、ワシントン大学ロースクール・アジア法センター客員研究員(2003年-2005年)。最近の著書に、『アジア諸国の女性障害者と複合差別-人権確立の観点から』(編著、アジア経済研究所、2017年)、『アジアの障害者教育法制-インクルーシブ教育実現の課題』(編著、アジア経済研究所、2015年)、『アジアの障害者雇用法制-差別禁止と雇用促進』(編著、アジア経済研究所、2012年)などがある。
- ネイ・リン・ソウ/Nay Lin Soe(ミャンマー/肢体障害)
- ミャンマー自立生活イニシアティブ(MILI)事務局長 ゲストスピーカー
- 自らが車椅子利用者であり、16年以上にわたり障害者の権利平等とインクルージョンを目指した活動をミャンマーのみならず16か国で展開。この間、ミャンマー社会福祉・救済再復興省ICT研修センター委員、MILIプログラム・ディレクター、ミャンマー障害者ネットワーク(MNDP)委員長等の要職を務めた他、ミャンマー障害者連合(MFPD)選挙委員会委員長、ASEAN障害フォーラム組織委員会書記等をボランティアで務める。2011年ロール・モデル・アワード(社会福祉省より)、2016年チャールズ・T・マナット・デモクラシー・アワード(米国系財団よりり)、2016年障害者の権利 擁護推進賞(ミャンマー障害者ネットワークより)、2017年王立KANAUNG協会優秀賞等を受賞。
- エヴァ・ナンギオ/Eve Nanqio(フィジー/聴覚障害)
- フィジーろう協会業務マネージャー ゲストスピーカー
- 聴覚障害(ろう)のあるトランスジェンダー当事者として、現在は障害分野における多数の青年委員会の委員を務める。権利擁護活動、障害者問題、その他多くの問題に取り組み、力強く発言。ユース・ワーク(青少年支援活動)、女性問題、LGBTIQAプラスのエンパワメントにおいて重要な役割を果たしてきた。願わくは人々の意識に変化をもたらし、コミュニティ内で主流から取り残され不利な立場にいる人々に対する理解をさらに深め、インクルーシブネスを新しい段階に引き上げたい。人々の考え方と態度が変化すれば、年齢、学歴、宗教、人種、信条、皮膚の色、性別、障害に関わらず、すべての人に平等参加と質の高い生活を確保できると確信している。
- オンダラフバヤール・チョロンダワ/ Undrakhbayar Chuluundavaa(モンゴル/肢体障害)
- ユニバーサルプログレス自立生活センター代表 ゲストスピーカー
- 大学1年生の時、医療ミスにより脊髄損傷になる。大学卒業後にダスキンのアジア太平洋障害者リーダー育成事業に応募して合格。2007年から2008年の間、ダスキン9期生として日本で障害者問題について学ぶ。帰国後、自立生活の概念・考え方が浸透していない社会に対して「障害とは何か」「バリアフリーとは何か」を伝える運動を始め、日本で行われているような自立生活センターをモデルとする活動を目指した。そして同期の仲間たちや研修先となった日本の障害者団体(メインストリーム協会:兵庫県西宮市)が持つ国際ネットワークの力を借りて、ついに2010年にモンゴルで初となる自立生活センター開設を実現。その成果は2016年のモンゴル『障害者権利法』制定にも大いに寄与するなど、モンゴルでの障害者運動の重要な地位を担う。1980年生まれ。
- 小林
- アジア経済研究所の小林です。本日、最初のセッションとして、アジア太平洋地域で障害者が置かれている状況、法律や制度、それらを改善し、インクルーシブ社会の実現に向けた障害者運動についての概要を把握するために、ミャンマー、フィジー、モンゴルより計3人のゲストスピーカーをお招きしています。
このセッションの進め方ですが、まず私から導入として、アジア太平洋地域における人権実現のポイントとして押さえて頂きたい背景について、お話します。私自身は障害当事者でもある同僚と一緒に、開発途上国における障害者の課題を研究する「障害と開発」研究を行っています。セッションにおける社会包摂、
ソーシャルインクルージョンと障害者権利条約の根底にある、「Nothing about us, without us.(私たち抜きに私たちのことを決めないで)」の精神は、「障害と開発」研究を行う上でも重要なスタンスです。
- ご存じの通り、障害者権利条約は他の人権諸条約と比べて、その制定過程において、障害当事者が介在できたことが特徴の1つと言われています。一般的義務を定める第4条では、法令や政策策定の意思決定過程で、当事者が積極的に関与すべきことが謳(うた)われています。現代社会において障害者がどのように位置づけられるか、ということにも連動しています。従来、人権や開発の分野では、障害者問題は周辺の問題とされてきましたが、権利条約では障害者を保護の客体ではなく、権利の主体として可視化しました。条約は障害者があらゆる人権・権利の平等に向けて、行政措置などを取り、障害者の教育の権利や労働の権利を認めることを求めています。障害当事者については、これらの権利が各国において実現することが何よりも重要となっています。アジア太平洋地域ではどうなっているのか、このセッションで確認できたらと思います。障害当事者団体の積極的な働きかけもあって、障害者権利条約の批准と、なんらかの国内法の制定は、アジア太平洋地域のほぼすべての国が行っています。
- 教育については一般教育制度から排除されないこと、インクルーシブな教育を基本とすることを条約は謳っています。多くの国で、障害者の就学は義務教育にあっても、実際に多くの課題に直面しています。そもそも学校に入れるかどうか、から始まり、入学しても卒業にたどり着けるのか、上の学校に進級できるのかなどの課題があります。現在はほとんどの国で括弧(かっこ)つきではありますが、なんらかの形でインクルーシブ教育を取り入れています。しかし、その多くは条約が謳う必要な支援をうけて地域の学校に通うものとなっていない状況です。一方で障害者教育に力を入れているところもありますが、インクルーシブ教育に向かわないまま、分離教育、特別支援教育に重点が置かれていることが散見されています。
- 労働・雇用については、事業主に対しては差別禁止、合理的配慮の提供を求めて、また割当雇用制度を含んだ積極的差別是正措置、また公的部門における雇用や、障害当事者による自営などの促進があります。障害者の就業率が非障害者と比較して低いのは万国共通ですが、アジア太平洋地域ではそれが顕著で、最大の問題となっています。この地域では日本などをモデルに、割当雇用制度を採用している国が少なからずあり、罰則規定も日本よりも厳しいところがあります。しかし、それでも雇用が少ない状況があります。その中で障害者運動によって、障害者雇用の道が開かれているところもあります。ただし、気をつける必要があるのは、それらの制度は未だに恩恵的であることです。障害者個人、障害者当事者団体による創意工夫によって、自営や起業を行うケースもあります。
- このセッションの議論です。「社会包摂に向けたアジア太平洋地域の障害者運動の軌跡」がテーマです。障害当事者に対するグットプラクティスについて、ゲストスピーカーから知識や経験のシェアをいただければと考えます。
- ソウ
- ミャンマーから来たネイ・リン・ソウです。私は、ダスキン・リーダーシップ研修の第7期生として日本で1年間勉強しました。私はミャンマーで車いす利用者でありながら、運転免許証をとった最初の1人です。日本で学んだことを活かすべく、国に帰って仲間を集めてMILI(ミャンマー自立生活イニシアティブ)という団体を作りました。最初は事務所、スタッフ、お金もなく始めて、みんなで一緒にがんばって、だんだん少しずつ大きくなりました。今はたくさんのスタッフと、国内に28のブランチができました。
まず私の国ミャンマーについて説明します。2014年に国勢調査があり、人口の4.6%(230万人)の障害者がいます。(障害者の中で)大卒はわずか2%にすぎません。53%の障害者は学校教育を受けておらず、85%の精神障害者は無職で定期収入がありません。ミャンマーの経済の基盤は農業ですが、障害者世帯の62.5%は耕地を持っていません。車いす、介助機器もなく、もちろん国内での生産も行われていません。230万の障害者人口に対してリハビリテーションセンターも(国内で)4つのみです。
- 次に政府の対応ですが、私の組織も含めた障害者団体の運動の成果もあり、ミャンマー政府は2011年障害者権利条約を批准。国会では障害者法を2015年に制定。そして2018年早々には、障害者権利に関する国家委員会を設立し、副大統領が委員長に就任しました。私の団体は特に選挙実施母体であるミャンマー選挙管理委員会(UEC)との連携を深めていて、地方選挙の規定や方針の改正、障害者のアクセス推進に寄与することができました。また教育省は2014年に国家教育法を改正し、インクルーシブ教育という視点をメインストリーム化しました。社会福祉・救済再復興省は障害者の開発のための国家戦略計画(2016-2025)を採択しました。これらは障害者の権利擁護運動の成果と言えるでしょう。
- 法整備は促進されましたが、現場での実施段階に至るには、まだ予算的にギャップがあります。例えば私が冒頭に述べました通り、多くの子どもたちは学校に通えていません。彼らが学校や大学に通えるようになるまでには、5つのバリアがあります。1番目は学校や大学の建築デザインやロケーションの問題です。2番目は障害を持った生徒に向き合う教師の姿勢や教育者としての能力。3番目は教育方法の確立や支援。4番目は公共交通機関。最後は障害を持った生徒に対する地域社会の対応です。私の同僚の経験からすると、99%の大学、短大は障害者にとってアクセシブルではないとのこと。しかし、新しい民主政府はより多くの障害を持った子どもたちを受け入れるようコミットしています。また学校へのアクセスは、やはり都市部と地方部でギャップが依然としてあります。政府がインクルーシブ教育を推進している反面、政策立案者や他の障害者団体には、インクルーシブ教育・学校よりも特別支援学校のための資金を使いたいという動きもあり、それがもう1つの課題になっています。
- ミャンマーでは障害者の雇用率に関する割り当て制度が存在するものの、実は障害者雇用についての関係者である政府、雇用主、企業そして障害者自身が交渉する場がなく、共通の合意も存在しません。私の団体や他の障害者団体は独自に企業にアプローチして、より多くの障害者を雇うよう訴えています。最近ではミャンマー・アペックス銀行、KBZ銀行、ブルーオーシャンオペレーティング&マネジメントカンパニーや他のいくつかの会社がより多くの障害者を雇用してくれるようになりました。これらの企業は今後、障害者が職場によりアクセスしやすい環境を整えるべく、オフィスの改装に取り組んでくれると思います。障害者雇用に関して達成できたことは多々ありますが、法律による強制的手段もまだ必要だと考えられます。特に公共交通や公共施設へのアクセスは首都のヤンゴンだけでなく、地方の多くの都市で課題を残しています。私の団体では現状打開のため、地方政府と緊密に連携して、すべての人が利用可能なユニバーサルデザイン都市をテーマにした全国セミナーを催しました。私たちは中央政府のみならず、特にヤンゴンの新しい都市開発計画への提案に前向きな姿勢を示してくれている、ヤンゴン地域政府の首相に対して積極的な提案を行っています。このような機会は私たちにとって大変喜ばしいもので、政府との協働は大変うまく行っています。
- 私の組織の強みは、やはり権利擁護の活動であり、①開発、②ソーシャルビジネス、③政治といった3つの領域を柱に展開しています。これらの柱はすべて開発、ビジネス、そして政治分野の行動計画において障害者の権利擁護とインクルージョンを目指して追求されます。私の団体は障害者の政治参加において、はじめてその政治的プロセスへの介入を行ったミャンマー初の団体です。私たちは障害者による政治集会、市民教育トレーニング、教育委員会へのトレーニング、平和構築トレーニングなどに定期的に取り組んで来ました。障害者問題はある意味、政治問題と言えます。もし政治家、政治リーダーが何かの約束をしたり、法律への署名を行えば、私たちは全国レベルでの成果と進展を確保できることになります。そのため、政治における利害関係者にアプローチして協働することはもちろん、議会や大臣、選挙管理委員会への継続的なアプローチも必要です。今やミャンマーには障害を持つ国会議員も数名誕生しています。選挙管理委員会は選挙規程を改正し、アクセシブルな投票所を設けました。私たちは視覚障害者が独力で投票できる投票用紙を開発し、いくつかの都市の投票所で利用できるようにしました。この開発は地方選挙での障害者のアクセシビリティの確保に向けた端緒となっています。スライドの9,10はこれらの活動の事例を紹介しています。今では選挙管理団体が選挙に関するトレーニングを行う際、私たちの団体は選挙管理に関わる職員や投票所の現場の係官に対するトレーニングを行う中心的チームとして招かれます。
- その他、ミャンマーの行政の課題、問題点として、障害に関する全国的な統計データがないことがあります。そのために効率的な計画やデータに基づいた権利擁護活動を行うことが難しい状況にあります。さらに言えば、そもそも障害者団体の数が少ない上に、その方向性も福祉に注力する団体、医療的処方に注力する団体などまちまちです。私たちは特に権利擁護をベースとした活動に取り組む団体を必要としていますし、その能力も2倍にして戦略的な計画を立てて行く必要があります。また中央政府からの障害者団体に対する予算的サポートも十分ではありません。現在、国家委員会で障害者コミュニティに対する政府資金の拠出が検討されています。
- 私たちが活動する上で、関連する障害者団体との協働が重要なことは言うまでもありません。障害者に対するインクルーシブなアプローチやサポートに関心を払うことは、すべての人、すべての団体にとって義務と言えるでしょう。それは必要だからであって、そうするのが良いからということであってはなりません。障害者のインクルージョンを実現することは難しいと考えることが多いですが、実は簡単なことなのです。すべての人々からコミットメントが得られれば良いのです。それで私の団体ではラジオ放送や大学生への奨学金制度、日常生活支援など様々なプログラムを立ち上げました。私たちにはメインサポーターである日本財団や米国、オランダ、オーストラリアなどからの支援があります。新聞の発刊事業などソーシャルビジネスにも取り組んでいます。ソーシャルビジネスの拡大に向けて持続的な資金調達にも取り組んでいます。以上、手短に私たちの活動の紹介をさせていただきました。
- 小林
- ミャンマーの状況によっては履行に課題があり、しかし、障害当事者が政府やビジネスに働きかけて改善しつつある。アクセシビリティについてもそうで、より良い情報が得られたと思います。では次に、フィジーろう協会のエヴァさんからお話しいただきます
- エヴァ
- フィジーから参りました。人口は91万2千人程度です。フィジーの中には、たくさんの宗教があり、キリスト教、ヒンドゥー教、イスラム教など多種多様な宗教、多様な民族がいます。フィジーの障害者の生活ですが、自立している方、就労されている方もいます。半分ぐらいの人の環境は整った所と言えますが、田舎はまだ未整備で活動はまだ進んでいません。
- フィジーでは国連の障害者権利者条約に2017年6月7日に批准しています。そして、フィジーの国内の法整備として、障害者の権利法が施行されました。昨年の2018年のことです。フィジーがある太平洋諸国には、障害者の権利に関する太平洋フレームワークが設けられています。各国において法律に位置づけられた活動があります。お互いの国で、他の国でできていないことがあれば、助け合うということがあります。ろう者にとってはテレビに手話を付けるとか、視覚障害者には点字を付けるなどの取り組みです。
- 私の活動についてです。(スライド4の)右下の写真の車いすの方はロビー活動を熱心にされています。右上の写真は国会への陳情の時のものです。その結果、権利条約の批准が行われました。(スライドの)左下の写真は、病院のバリアフリーの調査の様子です。障害者当事者が行っています。アクセスには様々な差別、格差があります。法律ではバリアフリーが明記されていても、まだまだ問題があります。会社や病院でも、ビルを建てる際には障害者のアクセスが考慮されるべきです。もしそれがないのであれば、公正さを求めていく必要があります。基調講演で垣内さんが言われた、「すみません、もうしわけない」という考え方ではいけない。そうではなくて自分たちから働きかけて相手の考え方を変えていく必要があります。
- 情報・コミュニケーションへのアクセスも必要です。例えばテレビ、事件や災害時には手話通訳者を入れる必要があります。情報がないと、ろう者や視覚障害者はとても困ります。ラジオによる情報保障が必要です。環境、社会基盤に障壁があります。バリアフリーにしていく必要があります。
- (スライド5に)絵が描いてあります。今の状況をイラストでまとめたものです。太平洋諸国のなかで、障害者団体同士でパートナーシップ、連携している団体があります。そこでは太平洋の国14か国が加盟しています。例えば、太平洋諸国で同じ問題があればフィジーから行って、国連の権利条約について指導したり、実際にどう行われているか確認をします。例えば、パプア・ニューギニアという国があります。その国でも、法律としてはいろいろな権利が明記されています。しかし、障害者に対する活動、履行はされていません。政府が資金を不適切な利用をするようなことがあれば、フィジーの代表者が行って、ちゃんと障害者のためにお金を使うよう政府に働きかけたりします。加盟国はスライドをご覧ください。
- 私が所属しているフィジーろう協会では、世界手話通訳者協会の会議を開催したり、フィジー全土から船や飛行機でろう者が集まる1、2ヶ月間の研修なども行っています。(スライド7の)左下の写真は、太平洋諸国が集まって行う障害者のスポーツ大会です。右下の写真は私がテレビで初めて手話通訳が必要だと訴えた時の写真です。
- 今後のビジョンですが、まず法的に障害者の人権を取り入れて、きちんと適切なものにしなければならないと考えています。そして政府で法律や施策を話し合う時には、必ず障害者の代表者、当事者が参加することが大切です。政府予算を使う時にも、きちんと障害当事者が障害者にとって良い使い方ができるように関与する必要があります。例えば車いすや、視覚障害者が使えるパソコンを提供するなど、どのようなものが必要かについて当事者が参画する必要があります。特に大切なことは、さまざまな法律が制定された後に、きちんとモニタリングすることです。また障害者に関する理解、知識を持った人が必要になります。もっと社会を障害者にとってインクルーシブなものにしていく必要があります。共に話し合うことが大切です。
- 小林
- 重要な鍵として、専門家と障害者当事者団体が一緒に取り組む必要がある、ということを提言されています。おっしゃるとおり、法律や規則を障害者の視点でモニタリングすること、障害者当事者もこのような障害者の法律を理解した上で活用していくことが重要なキーだと私も思います。次にモンゴルのオンダラフバヤール・チョロンダワさん、どうぞよろしくお願いします。
- バヤール
- モンゴルから来ました。みなさん、バヤールと呼んでください。ダスキンの9期生であり、今から11年前に日本に初めて来ました。まずはモンゴルのことを簡単に話します。人口は310万人です。そのうち4.1%が障害者です。これは1万8千人となります。ご存じの通りモンゴルは世界で一番寒い国です。首都のウランバートルは一番寒い首都と言われています。
- 民主主義に変わって29年になります。私も少し記憶にありますが、その頃は10歳で社会主義の大変さを今も覚えています。社会主義時代にも障害者の人権や法律に関するものがあったものの、不十分でした。国が発展するに当たり、障害者運動も前より盛んになり、障害者に関する政策や法律の実施がありました。良い点も良くない点もありますが、例えば新しい制度をつくる時には、障害者の声を入れるようになりました。障害者権利条約については日本より早く批准しました。それに基づいて、障害者の受け入れに関する法律もできました。政府に障害者開発庁という新しい組織が作られています。しかし、正直に言えば、いろんな法律、制度はできていますが、実施されているものは少ないです。やはり理由としては、社会や政府の方での障害者に関する意識が低いことがあります。
- 障害者の教育に関しては、障害者の受け入れに関する法律などが、今までなかったことから始まっています。例えば障害者のインクルーシブ教育もその一つですが、正直言うと、基本的な考えは従来どおりです。障害者は養護学校(日本の特別支援学校)にしか行くことができない状況です。しかも養護学校はウランバートルしかない。2年前、聴覚障害者の子どもたちの養護学校でデモがあって、1年間大きな問題となりました。この機会にインクルーシブ教育について考えなくてはいけないという機運が一般の人たちにも広がりました。また養護学校に関する意識を持っていた専門家はいましたが、インクルーシブ教育についての意識を持っている専門家はいませんでした。今年の政府予算でも、養護学校の予算はあるものの、インクルーシブ教育についての予算は全くありませんでした。それで障害者だけではなく、教育に興味を持っている他の人たちも参加して、こういうことを変えていこうとネットワークを作りました。
- 就職、仕事についてですが、これは10年前の調査です。日本に来る前に似たような調査を見たのですが、あまり変化がありません。仕事ができる障害者の中で、仕事に就いている人は20%程度です。そのうちさらに20%は家族のビジネスの手伝いで、給与をもらっていない状況でした。自分で専門の勉強をして、企業で働いているケースは少ないです。そして、障害者雇用に関する政府から支援があまりありません。
- この10年の間、社会や政府に対するアピール運動に取り組んで来ましたが、日本のような介助制度などを作る前に、まず障害者の考えを変える必要があることが分かりました。例えば私たちが外に出られないのは、自分たちの考えを変えないから。年に1回くらいしか外出しない人もいます。次はモデルになる人を探す、モデルプロジェクトが必要。重度障害の人でも当たり前の生活が出来るのだ、といったことを伝える必要があります。それから社会の考えが間違っていたら良い法律や制度ができても実施できないことも分かりました。障害者人権法ができて、障害者自立支援に向けたサービスを作っていこうという流れがモンゴルにもありますが、それを実施する前にまず、政府や社会に対して障害者に対する考え方を正すよう訴える必要があります。それを教えてくれたのは日本人のみなさんです。活動のあり方についても、今までではモンゴルでは、視覚・聴覚障害や肢体不自由の方などがばらばらで活動していましたが、まとまって活動する必要があることにも気が付きました。海外の研究をしている人たちとも一緒に、もっとモンゴルの社会を変えていく必要があります。
- 最後に申し上げたいことは、私が活動を始めた時、モンゴル社会を変えられるとは正直思っていませんでしたが、今はすごく自信がついて、それは可能だと信じています。お金の問題もありますが、今の制度を良くして行くことで、私たちのニーズに合わせた制度が絶対にできると思います。近いうちにモンゴルはもっと良い社会になります。今日はありがとうございました。
- 小林
- ミャンマーもそうですが、モンゴルは社会主義から民主主義となりました。また市場経済化という変化もありました。非常にドラスティックな変化のある中で、法律や制度の変化、経済的な状況が困難な中、現在、障害当事者運動が盛り上がっているということで、参考になるお話だったと思います。今からフロアからの質問を受けて進めます。
- 会場質問者A
- 私は専門学校の教員をしています。運動の過程のなかで、さまざまな課題があると思いますが、その中でみなさんがメディアとどのようなお付き合いをしているのか。あるいは、メディアのなかで、障害者の方々の問題をどのようにとらえているのか、お話を伺いたい。地道な運動をされることももちろん大事ですが、メディアを使って運動を展開することも非常に重要と思っています。
- ソウ
- 質問、どうもありがとうございます。私の組織もメディアを活用しようとしています。特にラジオのプログラムを70持っています。放送局は政府系が1局とプライベートが4局。これらを通して様々な活動紹介をして、障害者への理解を深める啓蒙を行っています。メディアが取り上げるのは慈善的な角度が多いので、慈善的な視点はできるだけ小さくして、我々の活動の実際の実力、影響力をきちんと伝えてもらうようにしています。バリアフリーなどのキャンペーンはメディアと共に行っています。メディアをうまく活用できていると思います。
- バヤール
- すごく大事なことですね。情報発信をしないと私たちの活動を社会に伝えることはできない。去年から3ヶ月に1回、国立のテレビ放送の機会があり、そのため障害に関するセンターの活動について10分くらいのTV番組を作っています。モンゴルは都市と都市の間が離れています。田舎の人は情報が足りないと困っています。だからラジオで、週に1回、自立生活のことだけでなく、他の障害者に関する制度を説明したり、色々なニーズに合わせた制度をどう作るかなどの番組を放送しています。
- エヴァ
- テレビ局やラジオの人たちとの出会いの場、話をする場を作り、そこで情報交換をすることで、良いパートナーシップを持っています。また助成金をもらい、ワークショップも開いて、彼らに対して例えばどんな用語を使えばいいか、障害についてどういう表現をするか、意味を伝えたりします。新聞でふさわしくない言葉が使われていれば、訂正を依頼することもあります。そのようにして理解を広めております。
- 小林
- 各国でメディアを有効活用しながら人的ネットワークを使ったり、非常に有効な方法だと思います。こういう経験はシェアできるかと思います。もう1人の方お願いします。
- 会場質問者B
- 弁護士として、障害者の方の権利擁護に関わっています。精神障害を持つ方の強制入院についてお教えください。みなさんの国やアドボカシーの活動の中で、そのような強制入院または施設での暮らしを余儀なくされている方々への活動は、どのようなものか伺いたい。またそれぞれの国で弁護士とコミットした権利擁護、アドボカシー活動があればご紹介ください。
- ソウ
- 私たちの経験から申し上げると、病院に収容されていたりします。あるいは、自宅で世話をされています。そういった特別な施設に収容されるか、家族の責任になっています。難しい問題です。
- バヤール
- モンゴルでの障害者運動で、やはり一番遅れているのは知的障害や精神障害の分野です。去年、モンゴルで自立生活センターのネットワークができましたが、その中で精神障害者のグループを作り、当事者が関わっています。今やっていることは、ピアカウンセリングでお互いのことをわかってもらうとか、政府に伝えるべきことは何かについて考えています。また弁護士の関与については大事なことだと思います。今から3年前、いくつかの障害者団体が集まり、市役所や労働・社会保障省といった行政との裁判では弁護士協会と協力して活動しています。司法においてもまだバリアだらけですが、弁護士がよく助けてくれています。
- エヴァ
- 弁護士の方々は法的な知識を持っていますので、福祉団体や病院とともに弁護士の方々が働いて下さるのは大事なことと思います。病院内で、例えば人権侵害などがあった際に、弁護士がそういった知識を持って協力することができるからです。
- 小林
- 実際この問題、精神障害者、知的障害者に対する支援や権利擁護は、開発途上国を見ていますと遅れていると思います。後見人制度の問題も、実際に私の研究所の同僚もフィリピンで聞き取りをした際、制度そのものが、当事者にも関係者にも行き渡っていない。国によって状況が違う。同じ言葉をつかっても全然違う。本日は多国籍のアジア太平洋地域の方がいらっしゃっていますので、ネットワークを強めて、今日明日と、起業されている方もいらっしゃっていますので、多方面からのネットワークを作り、情報共有しながら新しいプロジェクトが生まれるといいと思っています。
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