- 五井渕 利明/ Toshiaki Goibuchi(日本)
- NPO法人CRファクトリー 理事・事業部長 モデレーター
- 2011年CRファクトリーに参画。2012年度から内閣府地域活性化伝道師に就任。数多くのコミュニティやプロジェクトの運営実績から、幅広い知見やバランス感覚に定評がある。行政職員としての勤務経験から市民・行政の両面から協働の支援が可能で、ビジネス経験も豊富。多くの協働事業のコーディネートを手がける他、講師・ファシリテーターとしては年間100回以上の登壇がある。CRファクトリー以外にも、ものがたり法人FireWorks(地域プロデューサー)、一般社団法人JIMI-Lab(代表理事)、GRASS(ボードメンバー)、株式会社ウィル・シード(研修講師)など多様な組織の経営や事業に参画している。
- サミス・メイ/ Samith Mey(カンボジア/肢体障害)
- プノンペン自立生活センター事務局長 ゲストスピーカー
- プノンペン自立生活センター(PPCIL)を2009年に創設し、事務局長を務める。また、障害分野および社会福祉に15年以上取り組み、様々な管理職に就き、経験を有する。2006年から2007年までダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業に参加し、社会福祉と自立生活の研修を受けた。カンボジアの障害者の自立生活運動を促進し実施しようという意欲と可能性を持っている。さらに、開発活動とリーダーシップ・プロジェクト/プログラムの策定と管理にも経験があり、事業計画と予算編成、人材配置、プロジェクト実施、モニタリングと評価、および報告などを行った。障害インクルージョンと自立生活、開発に関連する国内外の障害者研修やワークショップに数多く参加している。
- チュン・チェ・リン(林 君潔)/ Chun Chieh Lin(台湾/肢体障害)
- 台北市新活力自立生活協会事務局長 ゲストスピーカー
- 骨形成不全の障害を持つ。生まれてから何回も骨折し、大学卒業まで母の介護を受けて暮らす。11歳の時、歩けるようになるための手術を受けるため日本に来日。入院したものの、結局手術を受けることができず、少しの日本語覚えただけで、台湾に戻ることに。22才で台北大学司法学部を卒業できたものの、外はバリアだらけで、外出も満足にできなかった。その時、障害者と家族はどうにか頑張って、社会を変えなければならないと理解した。24才でダスキン障害者リーダー育成事業の研修を受けて自立生活運動のことを学び、社会運動に尽くすことを心に誓った。帰国後の2007年に台湾初の自立生活センターを設立。現在は、障害者権利条約を実行する仕事とユース障害者リーダー育成の仕事に専念。
- 原 康子/ Yasuko Hara(日本)
- (認定NPO法人)ムラのミライ 研修事業チーフ・認定メタファシリテーショントレーナー ゲストスピーカー
- 京都市にて夫と息子と3人暮らし。1996年:名古屋大学国際開発研究科修士課程修了。2001年:認定NPO法人ムラのミライ(当時ソムニード)のインド事務所(アーンドラ/プラデッシュ州)設立時に赴任。2001年から2016年:インドとネパールを拠点に、NGO、JBIC、JICAの住民主体のコミュニティ開発プロジェクトに専門家として従事。2016年:関西大学非常勤講師。2017年・2018年:公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会の委託でメタファシリテーション研修講師(東京とカンボジア)。2018年〜現在:認定NPO法人ムラのミライ研修事業チーフ。主な著書:『南国港町おばちゃん信金〜'支援'って何?「おまけ組」共生コミュニティの創り方〜』新評論、2014年。
- 五井渕
- CRファクトリーというNPO団体の理事をしています。CRファクトリーのビジョンは、すべての人が居場所を持ち、心豊かな生活をするということです。そのためのミッションは、居場所と仲間を感じる温かいコミュニティを提供すること。サークル活動などの非営利組織の組織運営、マネジメント支援について、コミュニケーションに関する部分を研修やコンサルティングで関わらせていただいています。年に1度くらいはダスキンのプログラムでアジア各国の若いリーダーに対して、研修プログラムの1つを担当しています。ダスキン事業の研修生は、とても意欲の高い学びの姿勢で参加してくださるので、いつも勇気をいただいております。
- さて本日のセッションのタイトルは、「障害者団体の組織能力強化に向けた取り組みとその成果」です。人と組織の関係、内部のプロセス、運営をどうするかについては外に出づらいところがあります。かつ、成果がいわゆる数値や金額などに表れにくい取り組みでもあります。より良い関係性を作ること自体、多くの団体で後回しになることが多いです。星の王子さまでも、「大切なものは目に見えない」と言いますが、見えやすい数字・成果ではない部分、その内側で何をしているのか、それこそが実は団体を継続的に発展させていく、非常に大きなテーマと思います。CRファクトリーはいつも、心の筋肉トレーニングという表現をしています。鍛えておかないと、いざという時に対応できない、長く働くための重要な力と思います。それについてみなさんに気づきを共有できると思っています。
おふたり(サミスさん、リンさん)の団体は外部の専門家である原さん(ムラのミライ)の力も借りつつ、そこに取り組み、尽力されている。団体を良くするために、継続的に成果を出そうとしている団体のリーダーであることを感じていただけると、よりみなさんとの関係性が広がると思います。そういった趣旨のセッションとして、プレゼンテーションとディスカッションという形式で進めて行きたいと存じます。ではプノンペン自立生活センター(PPCIL)事務局長のサミスさんからお願いします。
- サミス
- こんにちは、今から日本語で話します。カンボジアから来たサミスと申します。1979年生まれです。私はポリオです。戦後に生まれ、国が貧乏だったので、ずっと普通の学校に行きました。後は非常に大きなチャンスがあって、2006年にダスキン研修生として日本へ来ました。その時に驚いたことは日本がきれいで住みやすいとことでした。研修が終わって帰国してからPPCILを開きました。
- (スライド3の写真を見て頂いた通り)メンバーが多いことはボランティアなどと一緒に撮ったからですが、このセンターはカンボジアで1つしかありません。この9月で設立10周年です。障害者や自立生活センターのコンセプトを色濃く反映して活動しています。その他、障害者のインクルーシブを促進するために、ピアカウンセリングや自立支援プログラム、介助サービスも提供しています。カンボジアの中ではPPCILが一番がんばっている障害者団体です。様々なイベントを通して障害者が集まる機会をつくっています。センターの活動の背景には、戦争があったせいで障害者も多いというカンボジア固有の事情があります。戦争は終わりましたが、今は事故にあって障害者になる人が多い状況です。
一般的な障害者の考え方は、自分の障害を治したいということ。でも私たちの考え方は、障害は自分の問題ではなくて、環境、社会の問題であるということです。環境を変えれば住みやすい社会を作ることができます。社会を変えることよりも、自分の障害を治すことに関心があるという障害者の現状はちょっと問題です。PPCILでは日本からの支援も受けており、たとえ重い障害があっても平等な生活が出来るように活動をしています。
- PPCILのメンバーには大卒の人がいないこともあり、グループ内でのコミュニケーションのやり方や、仕事がうまく行く方法などについて知りませんでした。日本障害者リハビリテーション協会や日本財団からのサポートなしには、スタッフの能力を開発することは難しかったです。私は2016年と2017年に日本に来て、研修を受けています。研修前は、事業計画を作ったりすることができませんでした。団体のアクションプランを作る際も、前はマネジメントの人だけ、あるいは、私だけで作っていました。今はスタッフと一緒に細かくアクションプランを作ることができるようになりました。今、スタッフはみな、事業計画を作ることができますし、評価も上手になっています。グラント(交付金)のプロポーザルを書いて、出すこともできるようになりました。
- 原さん(ムラのミライ)が去年の2月にカンボジアに来て、事実質問とか、メタファシリテーションについてさらに研修をしました。地域の障害者のみなさんにインタビューする時や、交渉をする時に、事実質問を使うとみなにわかりやすい。「なぜ?」とかを聞くのではなく、簡単な質問をすることで、少しずつスタッフの交渉能力が上がっていると思います。PPCILの団体のなかでは、コミュニケーションを取ることが大事になっています。以前は日本で良く言われる「ほうれんそう(報告、連絡、相談)」がなく、ビジョンも共有できていませんでしたが、今はスタッフが一丸となって、良い結果を出していると思います。
-
- 五井渕
- サミスさん、ありがとうございました。研修の機会を有効に活用されたことがよく伝わってきました。能力開発をする結果、個々人の能力が成長することもそうですが、おそらく、ビジョンの共有化が図れたことも含め、より組織に対して深い参画ができる。主体的なスタッフとしてそこに関わりを持って行けるということが、組織としての大きな変化なのだと感じました。次は台北市新活力自立生活協会事務局長のリンさんに発表をお願いします。
- リン
- みなさん、こんにちは。リン・チュン・チェと申します。台湾でやってきた活動と、多くの方々に支援をいただいて起こった変化をシェアしたいと思います。私は台湾の台北市で生まれました。骨形成不全という障害を持っていて、7歳で就学拒否をされ、8歳で一般の小学校に入りました。歩けるよう治療を受けるために日本の病院に行きましたが、骨が弱くて治療も手術もできずに台湾に帰りました。日本語はその時少し覚えました。大学を卒業した時、外がバリアフリーになっておらず、居場所がないことにショックを受けました。23歳の時にダスキンの研修に参加して、自立生活運動に出会いました。日本でたくさんの仲間が応援してくれたおかげもあって、27歳で台湾初の自立生活センターを始めました。
- 台湾には4.9%の障害者がいます。日本では自分の家にいる人がほとんどで、施設にいる人はわずかです。台湾は1971年に国連を脱退したため、他の国より障害者に関することが遅れています。民間の努力で、2014年にCRPD(国連障害者権利条約)実施のための国内法が議会を通過しました。台湾の障害者運動も諸々ありますが、私のセンターでは特に介助サービスに力を入れて来ました。
- 台湾の障害関連情報についてご紹介します。台北、高雄といった大都市では、地下鉄はバリアフリーになっています。そこでは自分が障害者だと意識せずに、自由にどの車両にも乗ることができます。しかし他の地域は依然、交通が不便です。スライド5の右下の新幹線の写真ですが、998席中4席だけ車いす用のスペースがあります。車いす用、ベビーカー用のスペースをもっと増やしたいと運動しています。UD(ユニバーサルデザイン)タクシーのサービスも始まりましたが、残念ながらすごく高い料金です。
- 私の自立生活センターは2007年に設立され、介助サービスや権利擁護、政策提案、ピアサポートなど様々な活動に取り組んでいます。どんな障害者でも自分の地域で生活できるような社会を作ることを目指して、障害者中心・主体で運営しています。2009年は民間の資金を集めて介助者養成のモデル事業を実施しましたが、それは2011年の公的な制度確立につながりました。今は台湾に5つの自立生活センターがありますが、事務所を持っているのは2か所だけです。障害者自身の意識を変えるべく、私たちは「障害は環境だ」というメッセージを繰り返し発信しています。台湾には国が予算を出して介助制度ができました。自立生活センターを運営するための資金も国から出ましたが、ガイドラインの基準に沿った運営を行うレベルには達していない状況です。障害者が一丸となって、政府へ影響力を高める必要があります。
- 各地のセンターの障害者はそれぞれの地域による格差や、学校へ行ったかなどの個人的背景の違いがあり、コミュニケーションがうまく行かず、まとまって行動することの難しさに直面することが往々にしてあります。まだコミュニケーションの技術が低く、プランを作る能力も低いのが現状でした。そこで2018年3月に初めて5つのセンターが同じ地域に集まって、話し合いをしました。以前、話す内容は「何もできなかった」「力がなかった」ということになりがちでした。しかしムラのミライさんと様々なワークショップをやり、自分たちが1年で何をやったのか、誰が活動したのか、どのようにお金を使ったかなど、ポスターを描いて確認しました。その過程で自分たちが厳しい環境の中でも、だんだんと活動が影響を及ぼしていること、少しずつ変化していることがわかりました。またポスターを使って仕事の成果を視覚化することで、仕事全体のバランスが分かるようになり、仕事の分担の仕方が前よりもうまくなってきたと思います。企画を作ることにも積極的になって、コミュニケーションのやり方もうまくなりました。5つのセンターで話し合いができたおかげで、色々大変なことを共有し、関係性も強くなりました。
以前、私たちの団体は障害者だけ、肢体のことだけ、というふうにやってきました。でも今は様々な団体、例えば弁護士などともつながり、学者や記者、多様な人々とつながって輪が広がりました。人権団体やLGBTの団体ともつながっています。様々な分野の人たちと話し合って、同じ目標に向かうことが大事です。みなさんと色々な情報交換や支援をもらえたらと思います。ありがとうございます。
- 五井渕
- リンさんが、コミュニケーションの改善に大変意識的に取り組んでいらっしゃることが、良く伝わってきました。社会課題というのは個人ひとりひとりの責任、課題というものではない。あくまで社会システム、構造が生み出している課題とした時に、ネットワークや生態系エコシステムと呼ばれる(相互的)視点に立って取り組むことが大事だと思います。おふたりの団体に伺って、その研修ワークショップや事業計画の開発をサポートしてくださった、ムラのミライの原さんから、あらためておふたりの成果についてどのように感じていらっしゃるかお話し願います。
- 原
- おふたりが本当に何もないところ、道がなかったところに道をつくりながら頑張ってきた素晴らしいプレゼンテーションをものすごく感動しながら聞きました。おふたりとご一緒できたことをとても名誉に思います。それでは感動の気持ちを切り替え、ムラのミライという団体についてご紹介させていただきながら、サミスさん、リンさんおふたりとご一緒した活動について、ご紹介します。私はムラのミライという団体の研修事業を担当しております。本部は兵庫県西宮市にあり1993年に設立され、昨年(2018年)25周年を迎えました。コミュニティと経済と環境が調和した状態の人間の営みを実現することを目的に活動しています。
私たちは国内外での地域づくりのプロジェクト、それを担う人材育成という、2つの活動をやっています。こうした活動には、独自開発をしたメタファシリテーションという手法を使っています。こちらの「途上国の人々の話し方」という本(英語版タイトル:Reaching Out to Field Reality)になっています。この手法は、地域づくりの現場のほか、子育てにも使っていただいています。私自身はインドとネパールといった海外で16年間、国際協力での現場におりました。でも、障害者の方の自立生活支援については、本当にサミスさん、リンさんのおふたりが先生であり、いろいろ教わっています。先ほどからリンさんとサミスさんが、「事実を聞く」ということを何度かご紹介してくださいました。少しだけメタファシリテーションという手法をご紹介します。
- 私のような日本人が途上国の国際協力の現場に出かけて行って、「あなたの地域で困っていることは何ですか?」と聞いても絶対誰も本当のことは答えてくれません。「学校を作ってくれてありがとうございます」、「道路を作ってくれてありがとうございます」、「で、次は何を支援してくれますか?」という繰り返しになる。これでは絶対に必要な支援はできないという試行錯誤の中で生まれたものです。例えば、「スタッフのキャパシティビルディングが必要です」と言われたら、「いつ何をしている時でしたか、そのことを誰かに相談したことがありますか?」と聞いていく。誰にも相談していなければ、あまり大した問題ではない可能性もあります。まずは、そのことについて、何かアクションを起こしているかどうかを聞きます。
もう一つの例は、「どうして私ばかりが忙しいのか?」という問いかけです。事実質問では、「何の仕事を、いつまでに、誰が、どのように、どのくらいの時間やお金をかけてやらないといけないのか-そのことを知っている人は、私以外にいるか?」と自分に問いかけます。これを自分や相手に繰り返していくと、問題を抱えている人は質問をされていくうちに「これが私の問題だったんだ!」と気が付き、自ら課題解決のために動き出します。そのような質問を投げかけることで、サポートをしていくという手法です。おふたりには、こうした事実を聞く質問を投げかけられるようになる研修をしてきました。それを事業計画づくりやスタッフ同士のコミュニケーションなどに使っていただいてます。
- カンボジア、台湾にお伺いした際、おふたりは周りをグイグイ引っ張っているのですが、道のないところに道を作っている段階ですから、スタッフのトレーニングには時間を割けない状態でした。その結果、ひとりで仕事を抱え込んでしまっていました。こちらのスライド(6と7)は、2017年と2018年の台湾でのトレーニングの様子です。計画づくりのための計画ではなく、関係者全員の行動が伴う-行動計画-(アクションプラン)をどうやって作るかの研修をしました。参加した5団体の方と「できなかったこと」と「できたこと」を「見える化」していきました。リンさんの役割も「見える化」しました。
これまで私自身、色々な国で、国際協力団体の支援活動を見てきましたが、従来の支援形態はどうしても支援する人から支援される人への一方通行になりがちです。ムラのミライはこれが嫌で、メタファシリテーションという手法を考えたのです。サミスさんとリンさんには、一方通行ではない、非常に新しい活動形態の可能性を感じています。メタファシリテーション手法を使っていただき、現地での活動の担い手、ドナー、支援の受け手、その人たちすべてを当事者として巻き込むスタイルに可能性を感じています。一方通行ではない、あらゆる方向への動きを生み出す活動の可能性があると思います。
- 五井渕
- 私より特に、より深く聞きたいことについて、これから質問させていただきます。おふたりが活動されている中で、ビジョン、共感度の差や、意識のギャップは常について回ると思います。そういったことにどう直面し、またそれをどのような努力で乗り越えていらっしゃるのか。どう変化させてきたのかについてもっと伺いたいです。
- サミス
- 私が感じているギャップというのは、私のセンターのスタッフには経験が少ない若者が多く、彼らが簡単な仕事をしたがる点です。また、自分の計画をあまり考えずに、マネージャーやボスからもらった仕事をやっている。自分が考えてやりたいとか、自分の課題が順調かどうかなどについて考えていないところがあります。スタッフにはドリームがあっても、どうやってドリームに到着するか計画を立てる能力が乏しい。一緒に仕事をしながら、本当はどこに行きたいのかなどを一緒に考えることが必要と感じます。
- リン
- 組織内部でチームワーキングを行う際、互いの考えにギャップがあるという経験をしました。自分の考えていることについて頭の中に留めるのではなく、明確化、視覚化してみなが集まって話し合うことが大事です。話し合って、表を作って役割分担を決めることが大事です。また外の人たちとの考え方に関するギャップもあります。自分たちは自立がすごくいいと思っているけれど、周りの人はそういう考え方は分からない。自分たちの輪だけでなく、地域に出て様々な分野の人たちとつながることがすごく大事だと思います。
- 原
- おふたりとも「本当にこれが必要だ」とすごいビジョンを持って、ひとつずつ実現していこうと忍耐力を持ってスタッフの方と向き合っています。サミスさんが「ギャップがある」と言われましたが、これが伝わらなかったけど、今度はがんばろうと本当に忍耐力を持って対処されています。リンさんも自分の考えを決して押し付けるようなことはしていません。リーダーならではのがまんといったことも垣間見ることがありました。みなで同じ地図を作ろうよ、みんなで同じ目的地を目指そうよというふうにされていました。
- 五井渕
- もう1つのご質問ですがサミスさん、リンさん共にパーティやいろいろなイベントなどを企画して、意識的に多くの人と接点を作る、参加を募っていると感じました。ただ参加するところからボランティアやスタッフとしてより深く関わるまでに持って行く工夫を深く聞きたいと思いました。日本の市民活動、NPOはそこが課題にもなっていて、ぜひヒントをいただきたいと思います。
- リン
- 自分たちが事務所を構えて引っ越した時、近所の人たちは車いすの人がたくさんいるのを見て驚いて、あまり良い顔をしませんでした。でも事務所を拠点として、今週は料理のパーティをするとか、いろいろなテーマで、一般の人にも興味のあるイベントを開催しました。例えば映画を観るとか、焼肉大会とか。特に食べるイベントをするとみなが寄って来てくれる。自分の地域だけではなく、関係する5つの団体を通して10年をかけて台北市以外の地域を回るキャンペーンをやりました。障害者が集まってボランティア活動もしました。
- サミス
- カンボジアでは、半日くらいかけて「TRY」と銘打った障害者のイベントを開催しています。大学生やボランティアの人、地域の人たちも参加します。日本の仲間も参加して、そこで友達を作ったりします。その他、大学で講義をやっています。そこで人とつながったら、事務所に遊びに来てもらうことなどでネットワークを作っていく。みなさんに障害者のこと、自立生活のことを知ってもらい、介助者を探すなどの機会としています。政府や地域の人と共にやっている活動です。
- 五井渕
- 原さんからも参画を作るという意味合いでのご経験などからコメントをお願いします。
- 原
- おふたりがこうしたイベントを開催される際の準備の大変さを垣間見ましたが、リンさん、サミスさん自身が楽しくやっていることを周りは必ず見ています。障害の有無に関わらず、楽しい人の居るところに人は集まってきます。おふたりが楽しそうに色んな方々と繋がっているのを見て、周りの人がどんどん巻き込まれていく。台湾のオフィスでは、毎回新しい若い人が介助者として本当に熱心に関わっているとのこと。おそらくこうしたイベントで知り合ったのだと思います。自分も楽しいと思いながらやれることが、周りを巻き込むカギだなと思いました。
- 五井渕
- 一緒にいることが楽しいということは大切ですね。こういった活動を通じて、おふたりが人との関係性を作り、周りの人の居場所を作っていると想像します。ここで会場のみなさんからご質問があればどうぞ。
- 会場質問者C
- 私はパキスタンから来ました。ダスキン愛の輪基金で2001年に来日しました。コメントさせて下さい。ダスキンのトレーニングで来た人はトレーニングが終わって帰国すると、日本のことをシェアすることができます。例えばご飯がおいしかったと。でも味までシェアすることはできません。日本の自立生活センターについても、見て初めて感じられることがあると思います。もちろん知識も重要ですが、体験も重要ということです。そういった場を提供するという考えはいかがでしょうか。
- サミス
- そうですね、味が大事ですね。私たちがダスキンのプログラムを卒業し、帰国して「日本は素晴らしい、住みやすい社会だ」ということをカンボジアのみなに伝えましたが、それは「うそだ」と言われました。やはり私と同じ味を味見してみたほうが良いと思っています。私たちのセンターから重い障害者を何回か日本へ研修に行かせてもらいましたが、その人たちは「うそじゃなかったね」と、研修を終えてからがんばってくれました。これから楽しみです。
- リン
- おっしゃる通り、体験が一番大事だと思います。2年前から共同募金会というところでプロジェクトを申請して、台湾の自立生活運動を勉強したい人、やりたい人を3~4人ぐらい選んで、日本で短期の研修を行いました。そして日本のセンターを多数訪問して、すごくいい効果、インパクトがありました。勉強の時だけではなく、毎日の生活でも大変勉強になりました。
- 五井渕
- ありがとうございます。今、リンさんがおっしゃったように、説明しても伝わらないことを体験で共有していくことは、見方を変えるとビジョンの共有化であったり、ギャップを埋めたりする上で重要と思います。私も専門家なので「どのように組織を良くするか」についてお話しします。私たちは成果を出そうとする時、行動を変えようとします。行動を変え、思考を変える。思考を変えるアイデアを出し始めます。でも行動や思考の前にまず関係性がある。お互い安心して話をして、自己開示や対話ができる。信頼関係があって、同じビジョンを共有していることで、ようやく豊かな思考や主体的行動につながる。つまり、即効性の高い何かの仕組みを作りたいのであれば、その前に対話や関係性に着目していただくことが大事です。日常的対話をするということ。研修、トレーニングの場、日常の場が大事です。おふたりからの事例の紹介もありましたが、みなさまの活動にも活かしていただければ大変幸いです。
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