- 伊藤 健 / Ken Ito(日本)
- 慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任講師 モデレーター
- 米国サンダーバード国際経営大学院(Thunderbird Global School of Management)にて経営学修士課程を修了後、ゼネラル.エレクトリック.インターナショナル(GE International)に入社。シックス・シグマ手法を使った業務改善や、コーポレート・ファイナンス部門で企業買収後の事業統合等を行う。勤務の傍ら、2005年よりソーシャルベンチャー・パートナーズ東京へパートナーとして参加、ソーシャルベンチャーの育成支援を行う。2008年にはゼネラル.エレクトリック社を退職、2010年まで社会イノベーションセンターの立ち上げに向けてNPO法人ISLの運営に関わる。2010年より慶應義塾大学政策・メディア研究科 特任助教。2016年より特任講師。主に社会的インパクト評価を中心に研究。他、アジアン・ベンチャー・フィランソロピー・ネットワーク東アジア統括。
- 鈴木 真里 / Mari Suzuki(日本)
- 公益信託アジアコミュニティトラスト チーフプログラムオフィサー ゲストスピーカー
- 企業調査会社、(特非)国際協力NGOセンター(JANIC)を経て、2005年3月(特活)アジア・コミュニティ・センター21(ACC21)設立に関わり現在事務局長・理事。2001年よりアジア現地NGOへ資金助成を行う日本初の募金型公益信託アジア・コミュニティ・トラスト事務局を担当し、アジア諸国(フィリピン、インドネシア、カンボジア、インド、スリランカ、ネパール、ラオス、ベトナム等)で事業発掘、モニタリング、評価を行う。ACC21自主事業ではマイクロファイナンス、自然農業、カンボジア・コミュニティ幼稚園、アジア社会起業家育成塾、パナソニック、インドネシアNGOとの協働事業、スリランカ女性支援事業等を担当。
- 松原 稔 / Minoru Matsubara(日本)
- (株)りそな銀行アセットマネジメント部責任投資グループ グループリーダー ゲストスピーカー
- 1991年4月にりそな銀行入行、年金信託運用部配属。以降、投資開発室及び公的資金運用部、年金信託運用部、信託財産運用部、運用統括部で運用管理、企画を担当。2017年4月より現職。 2000年年金資金運用研究センター客員研究員、2005年年金総合研究センター客員研究員。日本サステナブル投資フォーラム運営委員、PR(I国連責任投資原則)日本ネットワークコーポレートワーキンググループ議長、持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則運用・証券・投資銀行業務ワーキンググループ共同座長兼運営委員。経済産業省「TCFD研究会」ワーキンググループ委員。経済産業省「ESG 投資を活用した産業保安に関する調査研究会」委員。日本証券アナリスト協会 検定会員、日本ファイナンス学会会員。
- 功能 聡子/ Satoko Kono(日本)
- ARUN 合同会社 代表 ゲストスピーカー
- 国際基督教大学、ロンドン政治経済大学院卒。民間企業、アジア学院を経て1995年より10年間カンボジアに在住。NGO、JICA、世界銀行などの業務を通して、復興・開発支援に携わる。カンボジア人の社会起業家との出会いからソーシャル・ファイナンスに目を開かれ、その必要性と可能性を確信しARUN(アルン)を設立。日本発のグローバルな社会的投資プラットフォーム構築を目指して活動している。第三回日経ソーシャルイニシアチブ大賞国際部門賞受賞。がんを治療しながら働く家族を支えた経験から、「がんと就労」に取り組む民間プロジェクト「がんアライ部」を発足。がんになっても、いきいきと働くことができる職場や社会を目指している。他、認定NPO法人ARUN Seed代表理事、がんアライ部共同代表発起人。
- 伊藤
- 慶応大学の伊藤です。本日のテーマは「社会課題解決に向けた投資資金提供の流れをいかにつくるか」ということです。特に今日は障害というキーワードで、通常、助成金や寄付金をもとに行っている取組みとは別に、「投資的な資金で事業を支えることができるか」ということについて議論します。私は大学でこういう研究をしつつ、アジアの社会的投資の協会組織、様々な財団などが加盟する協会の日本の代表もしています。実践に基づいた話をみなさんから伺えればと思います。今日の議論ですが、既に会場に来られているダスキン元研修生の方から、「障害のある人がいかに経済的機会を生かして、(社会)課題を解決して行けるのか」、そして「具体的にそのための資金をいかに獲得するのか」について知りたいとの発言がありました。これら2つのポイントを勘案し、議論を進めます。私が最初に、社会的課題に向けた投資的な資金をどうするかをお話しした後、3人のゲストスピーカーの方、それぞれ違う領域で提供をしている方にプレゼンテーションをいただき、議論をしたいと思います。
- まず社会的投資についてですが、これは寄付的な資金と商業的投資が、ハイブリッドになっている、単に助成金で何か事業をしているのではなく、売上が上げられるような事業もある。つまりビジネスするだけではなく、同時に社会的な便益も生み出すというソーシャルビジネスが大きくなってきたわけです。それに対して、一般企業、投資家も単にお金儲けのために投資するのではなく、投資により社会的な企業をサポートするという動きが反対側から出て来ました。その2つが出会うところで、社会的な投資が出てきております。
- 社会的投資にも様々あります。普通に投資をするのと同じだけの金銭的な見返りを求め、かつ、社会的な価値も高いものに投資したいという、少しわがままな投資家がたくさんいます。それから財団とか、これまで助成金で出してきたけれど、助成金でお金を出すとそれは戻ってこない。例えば、半分とか8割でも戻れば、それを再利用して新事業に投資できるお金をリサイクルできるという観点で、助成金的発想から投資に動いてきたという場合もあります。今見てもらうのが、社会的事業のスペクトラムという言い方をしますが、スペクトラムというのは虹の色を考えていればいいですが、赤、青とはっきりとは分かれていませんね。だんだん色が変わっていく。社会的企業には、これが社会的企業で、これはそうじゃない、というのはありません。どんな企業にも社会性はあります。ただ、それが金銭的利益を優先するか社会的利益を優先するかのバランスがあるということです。黄色の枠。向かって左側、これは社会的なインパクトを追求する。金銭的利益はあまり考慮しないところです。右側の色の濃い赤い部分は、財務的リターンを期待するものといった様に、様々なタイプの事業があります。一般企業も、このなかのどこかに位置するということです。
- 1つご理解いただきたいのは、お金の話。企業が社会的インパクトを優先するのか、あるいは、財務的なインパクトを優先するかで、お金の出し方が変わってくるということです。3つの代表的な社会的投資のモデルがあります。一番上、ベンチャーフィランソロピーのモデル。投資的観点でお金は出すものの、助成金、寄付金というカテゴリーがあります。真ん中はインパクト・インベストメントというところです。投資的リターンを期待すると同時に社会的なインパクトも出していきます。最後のところ、ESG投資です。一般的には上場している株式や債券に投資する。株式を市場で買う時、どの会社がいちばん社会的に良い活動をしているかを考慮して、投資先を選択するというもの。見たとおり、投資対象がどういうものかでお金の出し方が変わってくるということです。
- もう1つ申し上げると、社会的インパクト投資が、いま世界的に大きな議論になっているのが、第3の軸としての社会的インパクトです。ふつう投資は2軸で考えます。リスクとリターン。リスクは投資したお金が戻ってこないリスクがあることを考える。リターンは、投資したお金が増えて財務的見返りがあることを考える。それに加えて社会的なインパクトを勘案して考えることが、いま議論になっているわけです。今日は3人の方々が違った事業をしているので、その話を聞くと、モデルがいろいろあることがご理解いただけると思います。はじめのスピーカーの鈴木さんに、社会的投資をどう捉えているかお話しいただきます。
- 鈴木
- 公益信託アジアコミュニティトラストの鈴木です。ACTということで知られていますが、アジアを1つのコミュニティと捉え、それに対して投資をします。金銭を信託する日本で最初の募金型の公益信託で来年(2020年)の11月で40周年を迎えます。個人や民間企業の信託基金を設定し、そこから拠出しています。最近の特徴としては、日本国内とアジアのつながりを大事にされる寄付者が増えている点です。直近ですと、日本を含め7カ国で支援しています。
- 仕組みは、運営母体のACTがプロポーザルを申請して、助成金を出すということになります。対象は、住民組織や教育機関、たまに政府がそういったアクターとなり、私たちのパートナーとなっています。支援対象者は広範であり、教育から保健、文化の振興、調査研究、様々な分野が対象となっています。ACTの強みは、現地のNGOが実施主体であることです。過去40年活動していますので、色んな国とのネットワークがあります。そしてお金を出す側からすると、1,000万円以上のご寄付であれば、だいたい1~2ヶ月で特別基金が設定されます。つまり煩雑な事務手続がないことも強みになります。寄付者は税制上の優遇措置を受けることができます。アジア各国のパートナーに日本に来ていただいて振り返りのための会議を開催した時に、現地のパートナーから、例えば南南協力、情報技術を活用したもの、ソーシャル・エンタープライズ、BOPビジネス、チャンピオン(リーダー)の育成などに対する支援に力を入れて欲しいという提案を受けました。障害を持つ人が便益を受ける内容のものについても支援しています。そのうちの1つとして、カンボジアのポーサット州の3年間のプロジェクトについて紹介します。障害のある子どもの総合学級クラスを現地に作りまして、他の子供達と一緒に学べる環境づくりを行いました。そのためにスロープを設けたり、先生の研修をしたり、リハビリテーションセンターに紹介し、定期的にリハビリの活動できるようにする。そういった、総合的なアプローチでのプロジェクトでした。助成金は年間200万円程度で、現地のNGOに対し助成をしました。
- これは障害を持つ子どもたちの親の写真(スライド16)です。マイクロファイナンスといって、障害者の保護者が実際に生計を建てられるように100~200ドルぐらいの少額の資金を融資し、農業や小店舗を運営したり、養鶏をしたり、そういったビジネスに融資をして、その利益が上がった時に返済するような仕組みでした。もう1つの事例は、ACT特別基金「大和証券グループ津波復興基金」による10年間の助成プログラムから助成したスリランカのプロジェクトです。被災した女性たちが立ち上がり、約70もの女性組織を立ち上げました。彼女たちが自立し、組織運営し、利益が出るような形で伴走して来ました。参加メンバーも1,300人程度にのぼりました。生計をたてなおした女性たちは店舗運営やシナモンの木を集めて売ったり、ココナッツを集めて売ったりしています。経済的な便益が生じただけでなく、女性の意思決定能力が向上したとか、家庭内暴力が9割減少したとか、あるいは子どもの教育状況が改善されるなど、目に見えないインパクトが多く出ました。一番大事なことは、女性全員が尊厳とプライドをもって前に進むことが出来たことです。
- 日本からの助成金は単年度の支援が多いですが、ACTは平均で3年ぐらい支援をします。1年だけだと、どうしても成果が見えにくいからです。寄付者に対しても財務的な会計報告、活動報告もしております。それから、人材育成や法人化をしたいとか、そういったソフト面の支援も出来るのがACTの特徴です。ただ助成金を使うと、助成金の期間終了=活動終了となることが多いです。依存性を高めてしまう危険性があります。そうではなく、出口戦略をどう設定するかが私たちの課題ともなっています。もちろんNGOが全てできるわけではなく、ビジネスモデルの開発、方法論や手段、アプローチがNGOだけでは足りない場合は、外部の色んな企業や関係者の力もいただき、連携することが必要と思います。
- 伊藤
- 鈴木さんのACTの活動の(原資)は助成金ですが、きちっと社会的な成果が何で、それを達成するためにはお金のほかに何をしたらいいかを、助成先と対話していくということですね。もう1つ、キーワードとして「出口戦略」という言葉を使われました。お金が終わったら事業が終わるのではなく、助成金を元本、資金の元手として、どう生かすかをきちんと考えるというのがお話のキーだったと思いました。次に、りそな銀行の松原さんにお話いただきます。松原さんは、今、ESG投資のグループリーダーとしてお仕事されています。銀行として社会的投資にどのように取り組んでいるか、今回のテーマにどのようにそれがつながるか、お話いただきます。
- 松原
- りそな銀行の松原と申します。りそな銀行という名前を聞くと、おそらく商業銀行というイメージだと思いますが、いろいろな業務がございます。この度は企業年金や公的年金の資金をお預かりして運用している立場、つまり投資家の立場からESG投資を中心にお話しさせていただきます。
- ESG投資は環境、社会、企業統治、これを考慮した投資行動のことをいいます。E(Environment)は環境で気候変動・森林破壊・海洋汚染等。SはSocial、つまり社会で、強制労働・児童労働・貧困・格差等。G(Governance)は企業統治で、取締役構成・取締役報酬等を考慮する投資を、ESG投資と言います。このESGの概念は2006年設立のPRI(国連責任投資原則)によってもたらされました。「これからの社会課題解決には民間の力が必要だ」と当時のアナン事務総長が主導し、国連が支援してこの投資家ネットワークが構築されたことが背景にあります。
- では、この国連責任投資原則(PRI)に投資家はどれぐらい参加しているか。2006年の設立当時は、100の運用機関だったものが、年々増えて今は2,200を超える運用機関等が参加しています。集まった投資家の資金量は約80兆ドル。日本円で8,800兆円(1ドル=110円換算)という巨大な資金パワーとなっています。このPRIは年次総会があります。
- 昨今のESG課題解決においては、企業の利益追求に加え、社会にどのようなインパクトがあるのかを考慮する必要が出てきていると考えています。社会の利益と、経済の利益という2つの軸から企業をどう評価するかというのは大きな命題です。長期的には社会利益と経済利益の両者を満たす(「両義性」と言っています)ことを目指していきたいと思っています。最後にPRIが我々投資家に向けたメッセージを紹介します。ネイティブ・アメリカンの言葉で「私たちは、この地球は先祖から受け継いだのではなく子どもたちから借り受けているのです。」この言葉は私にとっても活動の原点になっています。
- 伊藤
- 松原さんには銀行の立場でこうした環境や社会に対して、ガバナンスに配慮した投資に舵を切っているのか、それがどの程度大きな活動になっているのかについてお話しいただきました。先程、冒頭で、どのように投資の資金を得たら良いのかという質問がありました。最後から2番目のスライドにひとつの答えがありました。要するに、投資家がどんな取り組みに対して、お金を出したいか。ひとつはどの程度の範囲にどの程度の便益の波及効果があるかどうか。もうひとつ持続性ということで、活動が継続的に発展していくのか、あるいは、何かそこにイノベーションがあるのかといったことです。さらに、これが経済的な利益を生むか否かが条件に上がります。クリアできれば、社会的投資家が関心を持ってくれるかもしれない、そのような理解でいいでしょうか。さて3人目は功能さんです。ARUN(アルン)は、10年活動をしています。アジアでまさにインパクト投資を実施しています。
- 功能
- ARUNの(功能)聡子と申します。私からは、ARUNの活動と投資先の事例についてご紹介させていただきます。ARUNというのは、カンボジア語で「夜明け」という意味です。起業家の新しい社会をつくっていくという希望とエネルギーを表しています。私は10年間ほど、カンボジアで国際協力の仕事をしていました。その時出会った社会起業家との出会いがきっかけで、この社会的投資という事業を始めることになりました。社会的投資というのは、これまでの投資が財務的リターン、儲かることを目的にしていたのに対して、社会課題の解決、すなわち社会的リターンと、財務的リターンの両方を求める投資です。ARUNは社会課題を解決する事業を起こしている起業家と投資家を結び、相互のコミュニケーションを通して投資家も学んでいくコミュニティの形成を目指しています。
- ARUNのビジョンは、地球上のどこに生まれてもひとりひとりの才能を発揮できる社会です。これまでアジアを中心に社会的投資を行って来ました。具体的には、カンボジアとインドで投資をしています。その他に、アジア全体を対象に社会的投資のコンペティションを行っています。投資対象となる分野は農業、ヘルスケア、水、教育、ジェンダーなど多岐にわたり、最近ではIT、IoTを使った様々な事業に投資をしています。特に障害者というカテゴリーはないですが、障害を持った方が経営している会社に投資を行ったこともあります。投資をする際には、社会性の基準と、財務、事業性の基準の、両方を考慮して投資を行っています。とくに重視しているのは、起業家の社会課題解決のためのコミットメントです。社会的投資なので、どのような成果、インパクトを事業によって生み出しているかを計って、投資家、起業家と共に考える。そして、インパクトをさらに大きくしていく方策を考えるという視点を大切にしています。
- 投資先の具体例をご紹介しましょう。まずIoTを使い、酪農の生産から流通までの様々な課題を解決しようと立ち上げたインドのビジネスです。インドでは農家が牛を2~3頭飼っていて、村の集配所(コレクションポイント)にミルクを持っていく。今まではミルクの質を測る方法がなかったため、農家が水を混ぜて量を増やそうとしたり、逆に農家が良いミルクを持っていっても支払いを渋られたり、売る側、買う側双方に問題がありました。そこでIoT機器を設置してミルクの質と量を測り、その場でデータがわかるようにしました。データはクラウドに保存されて、乳業会社とも共有されます。質に応じて代金を払うことが可能になったおかげで、農家も質のよいミルクを持ってくる動機付けになり、透明性も向上し、生産から流通までの過程がうまく回り始めています。今、インド国内で1万台以上の機器が導入されており、登録農家は100万世帯を超えています。
- 次は、教育の機会に恵まれない障害者の兄を見て、障害を持つ子どもたちに教育の機会を与えたいと願い、AR(拡張現実)の技術を用いたリハビリテーションのプログラムを開発したパキスタンのエンジニアの起業家の例です。彼らが開発したプログラムを使うと、障害を持つ子どもたちがゲームを通じて、身体機能の向上、認知機能の向上を図ることができます。またフィードバック機能により、各自のレベルに応じた適切なプログラムを提供することが可能になります。こういう事業になぜ注目が集まっているのか。それは貧困問題の解決に関係ないと思われていた投資が、実は様々な社会課題の解決を図りつつ、利益を生む事業につながっていることが分かり始めたからだと思います。今まで出会うことのなかった人の間の協働が新たなビジネスの機会を生み出しています。今まで現れていなかった隠された可能性を解き放つことが金融の大切な役割だと考えています。
- 伊藤
- これまで取り組んで来られなかった問題を、新しいビジネスの機会にするためには革新的なイノベーションが必要になります。小さな企業でも大手がやっていない新しいアイデアや技術があり、それが今まで解決できなかった社会課題を解決するのであれば、そこに興味を持つ投資家が出てくると思います。酪農の話も、数万世帯という農家に広がる可能性があるということでしたら、お金を出す投資家が現れ、そして問題解決につながるというものです。ここで会場からのご質問を受けたいと思います。
- 会場質問者E
- 弁護士です。伊藤さんが最後におっしゃった、質とインパクトの測り方、インディケータについてお尋ねしたいと思います。個人的にもESGには希望をもっていますが、その結果については数で測るのが多いという印象です。障害者分野だと障害者雇用で何人雇用したとか。ただ、わかりやすい一方で、ひとりひとりの異なるニーズを捉え切れてない気がします。インパクトをみる時、質をどうやってみんなで共有できるのか。海外経験を踏まえみなさんのアイデア、お考えをご教示いただければと思います。
- 松原
- ESG投資に関しては投資先の上場企業と対話をしています。対話において、対話先の企業から「取組み方針とその内容」に関して情報開示があります。その開示内容について対話が行われるわけですが、我々はインパクトをその企業の対話内容と本気度から定性的に測ります。考えに至った背景、そして社内全体に活かすための取組を確認し、質とインパクトを定性的に判断いたします。
- 功能
- 質的インパクトといった時、マクロレベルとミクロレベルのものがあると思います。マクロレベルだと、事業自体が政府とか政策、制度に影響を与える可能性があります。酪農IoTの事業の例だと、農業にITを組み込むというのは非常に新しいことで、IT化の進んだインドでも新しいことです。実現するためには政府を動かさないといけないので、起業家も困難に直面しました。しかし、彼らのIoTを使った事業を通して、古い仕組みに風穴をあける役割を果たしています。
ミクロレベルでは、障害児教育の例ですが、ご指摘の通り、子どもたちは個別の課題を抱えています。おもしろいと思ったのは、このプログラムではサービスに質への対応をビルトインしています。個別の子どもの反応をデータとして蓄積しているので、子どもの状態にあったプログラムを提供できます。イノベーションで数をある程度と大きくしながら、質的にも対応できるようになってきている点に可能性を感じます。
- 伊藤
- ソーシャルビジネスという領域においては、質と量は相互に関係します。例えば、先程の拡張現実のコンテンツも、中身がおもしろくて、かつゲームを通じて他の人とつながるおもしろい機能があればもっと売れるかもしれません。そういう両面のインパクトがあることがソーシャルビジネスの特徴と感じました。
- 会場質問者F
- ろう者でラオスから来ました。ACTの方にお聞きします。HIVを予防するためのろう者への啓発事業を2年前にACTに申請ましたが、目的と違ったのか落選しました。ACTの支援国が7カ国、ラオスも入っていました。どう対応できるのか教えていただきたいです。
- 鈴木
- 個別の案件についてはお答えしかねますが、ACTでは日本で研修を受けた方が母国に帰って実践する事業に対して支援するプログラムがあり、こちらに申請されたのだと思います。助成対象数は年間2件と数が少なく、一度採択されると複数年支援するので新規事業を毎年募集できないことがあります。またACTの中には裨益対象や事業内容を特定した特別基金があります。ある案件ではラオス国内各地にあるハンセン病患者のコロニーで患者とその家族の診療活動を行っており、現在4年目となっておりますが、それはハンセン病関連を対象にした基金があるため継続支援ができています。
- 会場質問者G
- 自立生活センターの代表をやっている者です。そもそも私自身は、投資家なる方にお会いしたことがありません。それはどういうふうに出会ったり、話ができるようになるのか、少しお教えください。
- 功能
- 正にその問題に日々、直面しています。最初のころは社会的投資自体が知られていませんでした。社会的投資は従来の投資とは違いますが、今までの援助とも違うので新しい道だと言って来ました。投資のことだけを話してもだめで、大事なのは投資で何をするかです。社会的投資に関心のある方が集まるフォーラムが、アジア全体あるいは地域ごとに開かれていて、そこで投資家に出会うこともあります。社会的起業を対象としたコンテストがあって、そこに関心のある投資家が集まってくる場合もあります。ただし、日本国内に限っていうと、まだまだ社会的投資家は少ないし、なかなか出会う機会がありません。それでも投資家は良い事業の種、良い起業家を探していますので、事業をどんどん推進すると共に、おもしろい事業をアピールし、仲間を募る、出会う場を作ることが大切だと思います。
- 会場質問者H
- 私の国のブータンでは、NGOは社会的な問題を解決するために、寄付してくれる人に頼っていてサステイナブルとは言えません。サステイナブルな仕組みを作るにあたっての課題というのはどんなことだと思われますか。
- 鈴木
- 非常に大事な質問です。これでみなさん、苦労していますね。資金提供する側にとっても一番大事なところです。助成金には限りがあります。資金がなくても組合や自助グループなどでメンバーが手弁当で活動を継続できることは多いです。それから助成金が出ている期間にどれだけベースをつくっていけるかが問われます。例えば助成を受けている間に、マイクロファイナンスで貸し借りの経験を積み、お金の活用方法を覚えて、利子を付けて返すなどの力を付ければ、助成が終了した後に地元の金融機関からお金を借りビジネスを続けるという仕組み作りができます。
- 松原
- おっしゃる通り、寄付は長続きしません。必要なのは支援ではなく「自立」と「自律」を活かす仕組み。具体的には投資という概念と枠組みが必要と考えています。
- 会場質問者I
- 私はベトナムから来ました。質問は「色々な社会問題があり課題がある中で投資家がどのように優先順位をつけるか、今後どう投資していきたいのか」です。ベトナムでは特に環境の問題が一番強調されていると考えます。障害の問題は可視化できていません。ですので、他の課題と同様に、障害者問題の重要性をインベスターにいかにわかってもらうかについてお聞きしたい。
- 松原
- 実は投資家も悩んでいます。投資家というのは資金提供者です。そして、その私たちも大事な年金というみなさまの老後資金をお預かりしています。資金のチェーンを想いのチェーンに替えて、これからどんな課題解決しようとしているか、そしてそれは資金提供者にとっていかなる意味を持つのかについて、対話を通じて、私たちに伝えてください。ただ、現実にはトレードオフが度々生じます。社会課題が持つ切実性、波及性、持続性、範囲性等の様々な観点で、優先順位をつけざるえないことがあります。これからも私たちは様々な関係者から話を聞いて何が重要課題かを知る努力をしていきたいと考えます。
- 功能
- 昨年、私たちは社会的投資コンペティションを行いました。15カ国、128社から応募を頂きました。その中で一つの特徴は、障害分野に関するビジネスアイデアが多かったことです。先程ご紹介した例もそのひとつです。それは私たちに障害の課題への新しいアプローチに関して、目を開かせてくれたのです。そうすると私たち投資家も、障害分野で新しいものを考えようとか、探してみようかと考え、さらに学ぶのです。先程、世界中に10億人障害を持った人がいると伺いました。みなさんが障害は大きなマーケットになるはずだと声を上げれば、それが社会を動かし、投資家を動かしていくと思うのです。ぜひ、あきらめず声を届けていただきたいし、これはおもしろいなと思う事業があれば、それを私たちに伝えて欲しいです。
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